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日本ウッドデッキ協会からコラム

ブラジルの光と影 その9

2019年10月14日

ブラジルの光と影ー その9.
「ブラジル新大統領就任式(2019年1月1日)。」

添付写真にて、イタリア系ブラジル人のボルソナロ大統領(63歳)と、その妻,ミッシェレ(38歳)の就任式の様子を送ります。
夫婦の年齢差、25歳。若い妻をもつボルソナロを羨むより以上に、若い世代の発想と行動力に、心から賛辞を送りたい。
この若い娘は、大統領肩章を誇らしげにかけて国民に語り掛けた夫に続いて、自分の言葉を「手話」にて国民に伝えたのです。
まったくのハップニングな出来事。
前もっての式次第にも予定されていなかった。
彼女の「手話」は、そばに控える秘書によって、マイクで会場に流れた。
その内容は、私は聞いていなかったが、それする若い彼女の心意気に、すっかり魅せられてしまった。
今までの世界のリーダーたちの就任式に、当事者の「手話」が使われたことはあっただろうか? 
「手話」が彼女の得意技なのか?、この日の為に練習したのか?、まったく知らない。
しかし、TVにて、この事実を見た国民は、これから始まる個性の強い新人大統領の行動の中に、何かホッとする気持ちになるものを感じたと思う。
有権者の一人であった私自身が、そうであったからだ。

「ブラジルのトランプ」と騒がれたボルソナロは、政敵のルーラが約10年間余りに渡ってブラジル社会に植え付けた「不道徳意識」、それ故に、「汚職に対する罪悪感」がマヒしてしまった政界、社会に危機感を覚えて、意識的に強い言葉を用いて人々の注意を促してきた。しかし、それは、毎月1000円にも満たないバラマキ政策にならされてきた低階層の国民にとっては、理解しがたい演説であり、その意識差を利用して、ルーラの労働党は、ボルソナロを「一般民衆を弾圧する危険な大統領候補だ」として彼らの危機意識を煽ってきた。 
しかし、東北ブラジルの多数の底辺所得層(約30%)には、この選挙戦術が使えたが、中部および南部の国民(約40%)には100%通用出来なかった。何故なら、彼らは中間層で、所得も底辺層より高く、教育度も高い。その彼らが、投票にあたって考えたことは「ボルソナロは、1970-1990年の軍人政府とおなじ性格ではないのだろうか?」との大きな疑問だった。

ブラジルの軍人政権20年間は、私のブラジル移住生活の初期だった。だから、はっきりとその軍人政府の実情を覚えている。
ブラジル国内で、双方が兵器や戦車を持ち出してドンパチやった市民革命で出来た新政府ではなかった。
昨日までの政府が、「今日から新政府となります」と国民に告げ、その閣僚のすべてが現役の軍人たちであった。
人々はその突然の決定に驚いたが、現在の様な十分過ぎるほどの、新聞、雑誌、TVによる報道量があったのではなく、国民の最大の関心事は、ワールドカップのペレの活躍であった。
優勝したら全員に「フォルクスワーゲンを贈る」と言うアラブ系ブラジル人の政治家の約束が報道されて、興奮は最高潮に盛り上がった。
彼は翌年のサンパウロ知事の有力候補で、ブラジル中のアラブ系の資金援助を受けていた。
軍人政府になる8年前、「キューバ危機」が起こった。
米ソ冷戦のさなか、フルシチュフのソ連は、南米諸国の社会主義化に力を注いでいた。
チェゲバラがキューバに潜入したのを始めとして、アルゼンチン、チリーも飲み込まれていった。そして、1962年にキューバ上空のアメリカの偵察機が、ソ連の貨物船が核弾頭を陸揚げしているのを発見。
そして、KENEDYとフルシチョフとの一騎打ちが始まった。
世界の両大国間の紛争。世界の人々は、第3次世界大戦の勃発を真剣に心配した。
それに懲りたアメリカは、「進歩の為の同盟」と呼ばれる巨額の援助金で、南米各国の政治支配を始めた。
援助金と引き換えに、政府内部、あるいは、国民生活に潜り込んでいた赤分子を摘発していった。その担当者が、軍人政府だったのから、「軍人政権イコール国民生活弾圧」というイメージになった。
私は、幸いにも「ノンポリ移住者」だったから、直接の影響はなかったが、日系家族の中には、「息子や娘が突然消えてしまった」という悲劇があちこちで聞かれる様になった。学業優秀、真面目、正直な日系2世、3世達は、共産主義拡張のための、最高の兵士達だったからだ。
約50年前の出来事だった。
一般の国民生活の中から、共産主義者を探し出して、国民の安全な生活を確保すると言う政府の説明は納得出来る。
しかし、毎日、自分の農地を耕し、そして、シュラスコとピンガとサッカーが人生のすべてであった自分たちが、政府役人に監視されると言う毎日は、恐ろしくて堪らない。事実、20年後に軍事政権が終わった後で、親しい弁護士が一杯飲みながら述べた言葉は忘れられない。
「俺たち弁護士は、自分の頭で考えて、それを発表するのが仕事だ。しかし政府は、それを検閲する。あの時ほど、苦しく惨めな時期は、俺の人生でなかったね」。

中間層のブラジル人は、皆、同じ様な経験を持っている。そして、この10年間ブラジルの政財界に蔓延した汚職を始めとする乱れた社会風潮を改めねばならないという事も痛切に感じている。
それが出来るのは、軍隊を背景にした「強権」だと言う事も知っている。しかし、ボルソナロはそれ出来る候補だろうか?
その不安は、選挙運動中に起こった。
ボルソナロは暴漢に襲われ、全治20日間の入院を余儀なくされた。
だから、1月1日の就任式には、軍隊が派遣されて警戒に当たり、また、その為だろうか、欧米、アジアの友好国からの政府代表の派遣も見られなかった。
さてこの様な台本で始まったボルソナロ政権は、うまく発車出来るのだろうか?
まず、ブラジルの経済を見なければならない。
大蔵大臣はパウロ グエデス(70歳)と呼ばれるヴェテランのエコノミストである。
ボルソナロとの関係は深く、その深い信頼関係から、今回の抜擢になったと言われている。シカゴ大学で学び、卒業してからも母校の大学の教壇にも立った学者である。
若い頃は チリー政府の経済政策立案にも参加したと言われているが、詳しくは知らない。
老練なエコノミストの表情から判断して、過激政策に走らない順当な経済政策を実行して行くだろうとの印象を持つ。

ブラジルの経済を考える時、もう一人の経済大臣が輸出増加をして、外貨準備額を上げる事に頑張っている事に気がつく。
それは「人間」ではない。「太陽、雨、広大な大地」と言うブラジルの自然資源である。
自然資源を持たぬ日本は、経済成長を高めるために、計画経済を作り、その実行のために、官民一体になって頑張らねばならぬ。
ところが、ブラジルの第二の経済大臣、つまり、自然資源は、まったくの自然の恵みにしたがって外貨収入をしてくれる。 
時期がくれば播種をすると、その生育を助けてくれる降雨と太陽の恵み。
そして、大豆やトウモロコシが大きくなるのを待って、収穫、輸出するだけで良い。
大豆は米中の貿易戦争のお陰で、予想外の中国からの注文を受ける。
中国を始めとするアジア諸国の人々の食肉需要は、年ごとに増えている。
そして、大豆やトーモロコシの生産に適さない傾斜地の大地には、牛がのんびりと草を食んでいる。
自然放牧だから、飼育コストは、ゼロ。
国民の数を上回る食肉が輸出の出番を待っている。
鉱物資源に目を向ければ、300年間掘り続けても枯渇しないと言われる露天掘りの鉄鉱石鉱山があり、海底油田があり、伝統作物のコーヒーは、世界に知られた高級ブランドとして知られている。

話があっちこっちに、飛んでしまった。
ボルソナロ大統領の結論を書かねばならない。
昨年(2018年)の初め、彼は中国と日本を訪問した。
中国では、「ブラジルを買うつもりか?」と気分を害し、日本では「まったく資源を持たないのに、世界の経済大国になっている事に驚いた」という話を聞いた。
これからの5年間、自分の信念のもと、自信をもってやって行って欲しいと望む。
アマゾン木材を扱う零細企業の私にも、ブラジル経済の流れは決して悪くないと映る。BRICsと呼ばれる新興国の一番ビリだったブラジルが、その先頭に立つ様に思える。中国やロシアが勝手に順位を落としてきたからだ。
アメリカとの関係も悪くない。来年は「G7]の一員にも呼ばれるのではないか、と期待する。
軍隊の規律を適用してルーラが破壊した国内を修繕、それを安心して外資が入ってくる。
もともと、ブラジルの経済は自活能力はある。
それに加えて、前述した第二経済が、つまり、豊富な自然資源が外貨を集めてくれる。
すると、さらに外資が流入する。
現在、起こりつつある中国の「負の連鎖」と全く逆の「プラスの連鎖」となり、さらに経済が強くなり、国が強くなる。

以上ー2019年1月6日。